日本アメリカ史学会会員のみなさま
『アメリカ史研究』第43号では、「1920年代再考」というテーマで論稿を募集します。下記の趣旨説明と投稿要領を参照の上、ふるってご応募下さい。
■趣旨説明
『アメリカ史研究』第43号の特集は「1920年代再考」とした。来年2020年は、女性参政権と禁酒法が施行されて100年目にあたる。それを記念する意味をこめて、女性が参政権を持ち、禁酒法が施行されたこの時代を100年後の現時点から振り返ってみると、従来の1920年代理解とは異なるものが表れてくるのではないかと期待している。
第一次世界大戦の終焉とともに訪れた「狂騒の時代」は、革新主義の時代とニューディールの時代の間の束の間の饗宴、息抜き、あるいは、禁酒法が象徴する「ばかばかしい実験」として、ある種の「例外」あるいは特殊な時期として扱われる傾向はないだろうか。だが、この時代は今現在と直結するモダニティが現出した時代であり、その構造を、当時確かに新しかった消費主義に還元するのではなく、一歩踏み込んで検討し、歴史的連続性の中でとらえてみれば、異なる解釈や像が浮かび上がってくるかもしれない。
2016年に出版されたLisa McGirr, The War on Alcohol は、禁酒法を中央政府の強権化の契機ととらえ、実はレッセ・フェールの共和党政権時代に、「大きな政府」の準備が始まっていたと主張している。考えてみれば、革新主義者は、一般的に、正義のエイジェンシーを政府に委ねようとする傾向があった。第一次世界大戦後、”Return to Normalcy”を唱えた共和党政権は、できる限り「小さな」連邦政府を目指したわけだが、実際には禁酒法の施行という前時代からの大きな荷物を背負うことになったのである。
つまり、アメリカに於ける「禁酒」とは元来、禁欲というプロテスタンティズムの徳目を象徴する振る舞いであって、教会や敬虔な女性たちがそのプロモーションに責任を負っていた。しかし、1920年代に一世を風靡した「フラッパー」は、19世紀に女性たちが専ら背負っていた「道徳の守護者」の役目をかなぐり捨て、身軽になって羽ばたいたのであり、その裏面には、政府が「禁酒法」として表現された道徳を取り締まるということがあった。つまり、民間主導のある種の公共圏の縮小は、政府権力を増大させる契機でもあったわけである。
それは、トクヴィル的なアメリカのデモクラシーの変質を意味していなかっただろうか。つまり、個々人の道徳的矜持によってアナーキを抑制するような社会構造、あるいは、シヴィル・ソサイエティを前提に成り立つデモクラシーが、「自由」と「デモクラシー」の謳歌の中で何か別の形に変わりつつあったのではないか。
もし、個人の責任の軽量化、あるいは、それにともなう個人の存在の希薄化と政府権力の増大という構図が、1920年代に進行中であったとするなら、その時代の消費主義、人種関係、国際関係、ジェンダー等は、その動きとどのような関係にあったのだろうか。この局面で、女性が得た参政権はどのような意味を持ち、どのように機能したのだろうか。それは、1929年の大恐慌、ニューディール体制、そして第二次世界大戦へと続くいかなる契機をはらんでいたのか。
1920年代の”Return to Normalcy”はまた、しばしば孤立主義への回帰ともとらえられてきた。国際連盟への不参加はまさにこのメンタリティの帰結だと。しかし、一方で、アメリカが望むか望まないかに関わらず、アメリカに育った「デモクラシー」は、この時代に世界中に価値として広まり、日本においてもごく短期間「大正デモクラシー」が謳歌されたことは良く知られている。あるいは、「フラッパー」は、その呼称こそ異なるが、グローバルな現象であった。日本でも「モガ」は社会現象となっている。また、近年「グローバル」や「トランスナショナル」などの観点から一国史的枠組みを見直す動きがアメリカ史研究において盛んに行われている。アメリカの「内」と「外」の境界の構築やその揺らぎに注目することで、伝統的な1920年代像を再検討できるのではないか。
■特集投稿論文の要領
1) 投稿資格
日本アメリカ史学会の会員
2) 制限枚数
本文・脚注ともに1ページ 43字×38行で 17ページまで 注・図表を含む(厳守)
(英数字は2文字で、かな1文字と数える。)
3) 期限
完成原稿の提出 2020年2月7日(金)必着
4) 注意事項
①完成原稿は、メール添付によりMSワードあるいはPDF形式のファイルの形で編集委員会Eメールアドレス(下記)に送付し、同時にハードコピーを学会事務局に郵送してください(期限厳守)。なお、編集委員会からの受領通知を必ずご確認ください。
編集委員会Eメールアドレス: editors@jaah.jp
事務局住所:日本アメリカ史学会事務局
〒100-0003 東京都千代田区一ツ橋1-1-1パレスサイドビル
株式会社毎日学術フォーラム内
②原稿には表紙をつけ、そこに、投稿者の氏名、所属、連絡先(住所、電話番号、メールアドレス)を明記してください。査読の公平性を保つため、論文本文にはタイトルのみを記し、氏名等は記載しないでください。
③原稿は横書きとします。原稿のフォーマット等に関しては、日本アメリカ史学会ホームページに掲載の執筆要項にしたがってください。
④ 完成原稿は、編集委員会が審査し、その結果をすみやかに投稿者に通知します。
『アメリカ史研究』編集委員会