日本アメリカ史学会会員のみなさま
『アメリカ史研究』第44号では、「グローバルな連帯」というテーマで論稿を募集します。下記の趣旨説明と投稿要領を参照のうえ、ふるってご応募下さい。
■趣旨説明
『アメリカ史研究』第44号は「グローバルな連帯(global solidarity)」を特集テーマに設定した。アメリカ史研究という場で「グローバル」に注目した背景には、一国史的な枠組みとの対比がある。そこでまず、一国史的枠組みに関して簡単に触れておきたい。
アメリカ史研究においても、一国史的枠組みが克服されるべき課題として指摘されて久しい。この点については、たとえば移民史のフィールドを例にとるとわかりやすいだろう。郷土史との密接な関わりを通して「出移民(emigration)」に注目してきた日本の日系移民史研究を重要な例外としつつも、アメリカ史研究において移民史(migration history)への注目は長らく「入移民史(immigration history)」に偏ってきた。しかしながら多数が本国に帰還したイタリア系移民などの歴史が象徴するように、国境線の「内」か「外」かに基準を置く見方は、双方向的でダイナミックな移民の実態を部分的に切り取った、断片的な歴史像に過ぎない。つまり移民史研究における一国史的枠組みの克服は、移民が構成する歴史の全体を回復しようという試みにほかならなかった。さらには、このように「内」と「外」を跨いだ双方向性や流動性への注目は、新たな理論的枠組みを模索するなかで歴史学と隣接領域の間の敷居を低くした。一国史的枠組みに縛られない研究の多くが学際性を志向するゆえんである。
こうした研究潮流のひとつの到達点を象徴していると言えるのが、廣田秀孝によるアイルランド系移民史の記述であろう。1882年の反中国人移民法を移民規制の「起源」と捉える見方を批判し、マサチューセッツ州やニューヨーク州における困窮した移民の排除というローカルな動きが制限的な連邦移民法の制定へと帰結したという画期的なスキームを提示した廣田のExpelling the Poor(2017)は、ある必然性をもって帰還先アイルランドでの実態に関する分析で結ばれている。移民・貧困者管理に関する法制度のローカル(州)およびナショナル(連邦)な相補的関係は、グローバルなパースティクティヴの内側でおいてこそ捕捉可能であると言えるだろう。
同様に、20世紀アメリカにおける法執行と国家暴力に注目したケリー・リトル・エルナンデスの研究もまた、「内」と「外」の関係を見直すうえで重要である。国境警備隊の歴史を移民管理という領域から犯罪と処罰の歴史へと拡張して分析したエルナンデスのLa Migra!(2010)は、アメリカにおける移民管理と法執行のあり方を米墨というバイナショナルな枠組みが強く規定してきたと説明する。非合法メキシコ人移民のアメリカにおける人種化にメキシコ政府が荷担していたというエルナンデスの「発見」は、メキシコの利害を「外」、アメリカの利害を「内」に位置づける前提でアメリカ史を捉えることの問題性を説得的に示していると言えるだろう。
総じて、一国史的枠組みを超えたダイナミックで新しいアメリカ史像を提示しようという当初の企ては、既存の歴史認識を揺さぶる急進的な衝撃力をたしかに持っていた。だがそうした急進的であるとともに「周辺的」でもあった歴史像やアプローチがある意味で「標準」となった現在、次に目指すべき地平はどこにあるのか。あるいは一国史的枠組みを超えたアメリカ史研究の過去(来歴)と未来(とりうる選択肢)の両方はどのように整理しうるのか。本特集では、ただ一国史的枠組みの克服度合いを確認するのではなく、「グローバルな連帯」という観点からアメリカ史を検討することで、これからのアメリカ史研究の方向性や可能性を探りたい。
もちろん一国史的枠組みの克服は移民史研究にとどまるものではないし、「グローバルな連帯」は社会運動以外にもさまざまな対象や争点・論点が想定しうる。たとえば直接的な結びつきはなくとも、思想的あるいは文化的な連帯がグローバルに歴史を動かすという事例も多くあるだろう。(反人種主義・反植民地主義運動や反基地運動、ジェンダー正義を求める運動などはその一例。)概念としてはジェンダー・セクシュアリティ・人種・エスニシティなど、領域としては社会史・文化史・政治史・外交史・経済史・労働史・思想史などに関わるグローバルな規模での結びつきや触発は、どのようにアメリカ史を特徴づけてきたのか。本特集では建国以前から現代までを対象にこうした点を考えてみたい。なお念のため付言すると、「グローバル」という現代的な用語は通史的な特集には不向きだという批判は当然ながらありえる。それでもあえてこの語を用いることにしたのは、「国際的(international)」や「汎(pan-)」などの用語でこれまで説明されていた事柄がもつ歴史的意味が、「グローバル」との異同性を考慮することでより鮮明になりうると考えたからである。「グローバル」が内包する歴史限定性と「超歴史性(あるいは普遍性)」の両方を念頭に、柔軟に「グローバル」の射程を捉えてもらえると幸いである。
■特集投稿論文の要領
1) 投稿資格
日本アメリカ史学会の会員
2) 制限枚数
本文・脚注ともに1ページ 43字×38行で 17ページまで 注・図表を含む(厳守)
(英数字は2文字で、かな1文字と数える。)
3) 期限
完成原稿の提出 2021年2月5日(金)必着
4) 注意事項
①完成原稿は、メール添付によりMSワードあるいはPDF形式のファイルの形で編集委員会Eメールアドレス(下記)に送付し、同時にハードコピーを学会事務局に郵送してください(期限厳守)。なお、編集委員会からの受領通知を必ずご確認ください。
編集委員会Eメールアドレス: editors@jaah.jp
事務局住所:日本アメリカ史学会事務局
〒100-0003 東京都千代田区一ツ橋1-1-1パレスサイドビル
株式会社毎日学術フォーラム内
②原稿には表紙をつけ、そこに、投稿者の氏名、所属、連絡先(住所、電話番号、メールアドレス)を明記してください。査読の公平性を保つため、論文本文にはタイトルのみを記し、氏名等は記載しないでください。
③原稿は横書きとします。原稿のフォーマット等に関しては、日本アメリカ史学会ホームページに掲載の執筆要項にしたがってください。
④完成原稿は、編集委員会が審査し、その結果をすみやかに投稿者に通知します。
『アメリカ史研究』編集委員会