日本アメリカ史学会会員のみなさま
日本アメリカ史学会では、「アファーマティブ・アクションの歴史的再検討」をテーマとして、第60回例会(7月例会)を同志社大学烏丸キャンパスにて開催します。本例会は、関西アメリカ史研究会主催の特別セミナー(日本アメリカ史学会共催)としても実施されます。例会終了後は懇親会も開催予定としております。奮ってご参加ください。
なお、例会や懇親会への参加については、準備の都合上、事前登録をお願いしております。下記URLからの事前登録にご協力ください。
https://forms.gle/jFPXogn3BdWywidV6
※また、例会の開催日が祇園祭の期間と重なっており、宿泊施設や交通機関の混雑・高騰が予想されます。どうぞお気をつけください。
テーマ: アファーマティブ・アクションの歴史的再検討
開催形式:対面方式
日時:7月20日(土)14時~17時
場所:同志社大学烏丸キャンパス 志高館SK110教室
https://www.doshisha.ac.jp/information/imadegawa/karasuma_map/index.html
*今出川キャンパスより徒歩数分です。
プログラム
<司会>
藤田怜史(岐阜市立女子短期大学)
<報告>
南川文里(同志社大学)
「歴史としてのアファーマティブ・アクション―「はじまりから終わりまで」の語り方」
吉岡宏祐(徳島大学)
「アファーマティブ・アクション擁護論の内実―企業と大学による議論の分析を中心として」
北美幸(北九州市立大学)
「アファーマティブ・アクションと「割当」―ユダヤ系の視点から」
<コメント>
大森一輝(北海学園大学)
趣旨
2023年6月29日、ハーバード大学およびノースキャロライナ大学のアファーマティブ・アクション(積極的差別解消策)が、連邦最高裁において違憲と判断された。また同年には、アファーマティブ・アクションについての最初の最高裁判決である「カリフォルニア大学理事会対バッキ」判決(1978年)から45年を経た。この間、アファーマティブ・アクションは平等/不平等をめぐる政治的論点であり続け、また、エスニック・グループ間関係に軋轢を生んできたが、その実施の論拠は、アフリカ系に対する過去の差別の補償から学生集団の「多様性」の維持へと変化し、定着しつつあった。
日本以上に学歴偏重主義、資格証明書主義の傾向の強いアメリカ合衆国において、高等教育はマイノリティの社会的上昇の階梯として大きな意味をもち、人種や性別、出自によらず能力の高い者が成功を手にできる「平等」な世界を創り出すものとされてきた。しかし、実際には、マイケル・サンデルが『実力も運のうち―能力主義は正義か?』(原題:The Tyranny of Merit: What's Become of the Common Good? London: Penguin Books,2020)で述べたように、ハーバード大学学生の3分の2が所得規模で上位5分の1にあたる家庭の出身であり、出身家庭が高収入であるほどSAT (大学進学適性試験)の得点も高い。結局のところ、大学に入るための能力(学力)自体が、本人の選択や努力・意志による変更の余地のない環境や属性により決定されるという現状がある。また、卒業生の子弟を優遇する「レガシー制度」は、アフリカ系やアジア系の志願者に不利に作用してきた。
翻って日本では、2018年に複数の私大医学部において、女子学生や多浪の志願者を不利にする入学者選抜がおこなわれてきたことが明るみに出た。また、「親ガチャ」という言葉が瞬く間に広まったように、生まれた家庭によって人生に大きな格差が生じる社会となっている。他方で、東京工業大学や京都大学を含め、国立大学の4割で女子枠を導入または導入する方向での議論がおこなわれている。
アファーマティブ・アクションは、社会構造に深く根付いた差別をなくすためにはマイノリティとされてきた人々に門戸を開くだけでは不十分であるとの認識に基づいて行われたものであったが、今回、それに対して改めて違憲判決が突きつけられたことは重要な意味を持つだろう。これまでのアファーマティブ・アクションに関する学術研究は規範的・理論的な議論に偏りがちであったが、今回の例会では、その起源や歴史を振り返って検討することで、社会全体を見渡す広い視角からこの問題について考えてみたい。