日本アメリカ史学会会員のみなさま
『アメリカ史研究』 第48号では、「海と海をめぐる移動からみたアメリカ史」との特集テーマで論考を募集します。下記の趣旨説明と投稿要領を参照の上、ふるってご応募ください。
■趣旨説明
海をめぐる、また海と移動にかかわる研究は、陸に偏重してきた歴史を越えて、より広範な視野で歴史を捉えるための重要なアプローチとして位置づけられるようになってきた。なかでも海を越える移動の主体は実に様々であり、移民、囚人、奉公人、奴隷、海賊、軍人、漂流民、難民、密航者等枚挙にいとまがない。また移動の手段である船は、当該の時代における社会秩序を反映させた小宇宙であった。20世紀前半のブラジルへの移民船の場合、狭い船内空間が人々を国民国家の一員にする装置となることもあった。比較的短期間の航路であってもそれは同様で、広島県人、山口県人、沖縄県人が、船内での遭遇と様々な「教育」プログラムへの参加を経て、移民は「日本人」を意識せざるを得ない空間に位置付けられたのである。また海をめぐる移動と船にかんする研究対象には、病原菌も含まれる。最近では、新型コロナウイルス感染症の拡大がクルーズ船内で見られた事例が記憶に新しい。その船籍はイギリスの海外領土であり、客と船員はグローバルな周遊を開始後、寄港地での隔離(移動の禁止)を強いられた。その際の混乱と困難、そして一部の乗客者の出身国のチャーター機での移動措置等は、まさにナショナル、グローバル、ローカルの主体がせめぎあう様相をみせた。歴史と現在を往来しつつ本号では、「海と海をめぐる移動」をローカル、グローバル、ナショナルを排他的にとらえずに総合的な探求を目指すこととしたい。
海と移動にかかわる研究の具体例を挙げてみよう。アトランティックヒストリーに触発されて、環太平洋のモノや人の移動をめぐるアメリカ史の研究が進んでいる。それでもなお、19世紀中の太平洋をめぐる移動にかかわる研究対象として、日本と北米双方に存在した、19世紀に海を渡った/渡らざるを得なかった漂流民に対しては考察/再考察の余地が多分にある。イギリス人の父親と先住民の母親を持った「混血」のラナルド・マクドナルドは太平洋を渡った人物の一人であった。マクドナルドは日本人漂流者の北米到着を耳にし、1848年自ら船を離れ一人北海道に上陸し、のちに森山栄之助ら通詞達の「ネイティブスピーカー」の教師となった。捕鯨船をはじめとして、船上には陸上と比較すると相対的な平等があったといわれるが、19世紀半ば、そうした海と陸との間の人種関係の異同について、日本人漂流者の中にも鋭いまなざしを向けるものもいた。20世紀に移動せざるを得なかった人々には、日本から亡命しハワイやアメリカで祖国独立運動を展開したコリア系の運動家や、ベトナム戦争によって1970年後半以降増加した海路で避難した「ボートピープル」と呼ばれるベトナム難民がいた。これらの海を渡った/渡らざるを得なかった人々に関する、直接的また間接的な史資料を通じた海と移動にかかわる検証は、環太平洋をはじめとする海をめぐるより豊かで複雑なアメリカ史叙述へと広がっていくであろう。
海はまた、災害と深くかかわってきた。それゆえに海は畏敬と恐怖の対象でもあり、海をめぐる語り、海をめぐるメタファーは多くの絵画、文学作品、映像作品のモチーフとなっていることには言を俟たない。本特集のテーマ「海と海をめぐる移動」では、海と人やモノそして動植物等の移動の歴史のみならず、環境、映像、文化、表象の側面からの新たな海をめぐる/海と接続する歴史像を期待するものである。
本特集は、海洋史とグローバルヒストリーの交点に立つ諸論考を通じてアメリカ史における海と海めぐる移動の諸相を炙り出し、従来の陸上中心の歴史観をいっそう補完することを目指し、アメリカ史を再考する機会としたい。
■特集投稿論文の要領
1)投稿資格
日本アメリカ史学会の会員
2)制限枚数
本文・脚注ともに1ページ 43字×38行で 17ページまで 注・図表を含む(厳守)
(英数字は2文字で、かな1文字と数える。)
3)期限
完成原稿の提出 2025年2月7日(金)必着
4)注意事項
① 完成原稿は、メール添付によりMSワードあるいはPDF形式のファイルの形で、下記編集委員会Eメールアドレスに送付し、同時にハードコピーを学会事務局に郵送してください(期限厳守)。なお、編集委員会からの受領通知を必ずご確認ください。
編集委員会Eメールアドレス:editors(a)jaah.jp (a)を@に置き換えください。
事務局住所: 日本アメリカ史学会事務局
〒100-0003 東京都千代田区一ツ橋1-1-1 パレスサイドビル 株式会社毎日学術フォーラム内
② 原稿には表紙をつけ、そこに投稿者の氏名、所属、連絡先(住所、電話番号、メールアドレス)を明記してください。査読の公平性を保つため、論文本文にはタイトルのみを記し、氏名等は記載しないでください。
③ 原稿は横書きとします。原稿のフォーマット等に関しては、日本アメリカ史学会ホームページに掲載の執筆要項にしたがってください。
④ 完成原稿は編集委員会が審査し、その結果をすみやかに投稿者に通知します。
『アメリカ史研究』編集委員会